COLUMN

コラム

高等教育政策・大学経営

定員を減らした先に、何を描くか

定員を2割減らせば、充足率は上がる。理屈のうえではそうなります。

ところが実際には、そうならない学校を数多く見てきました。充足率80%の学校が定員を20%減らすと、減らしたあとの枠で、また80%に落ち着く。分母を小さくしたはずなのに、比率が動かない。

文部科学省は、定員を引き下げてから7年以内であれば、審査を経ず届出のみで定員を回復できる仕組みを2026年度から施行します。2027年度以降の学則変更による定員減が対象です。これまで縮小は片道切符に近いものでした。一度減らせば元に戻すのに再び審査が要る。だから決断が重すぎた。それが往復可能になります。

2025年度は私立大学594校のうち316校、およそ53%が定員割れでした。2040年には18歳人口が74万人まで減ると推計されています。縮小を選択肢として持つこと自体は、経営判断として自然なことだと思います。

だからこそ、冒頭の話に戻ります。減らしただけでは、充足率は上がりません。

さらに厳しいパターンがあります。定員を減らすと同時に、広報予算と募集活動も縮小してしまう場合です。規模が小さくなったのだから経費も減らす。筋は通っているように見えますが、結果はたいてい元の充足率を下回ります。分母を減らすと同時に、分子をつくる力も減らしているからです。

では、縮小したうえで状況を改善できた学校は何をしていたのか。私が見てきた範囲では、二つの型があります。

一つは、追いかける数字を変えた学校です。志願者数や志願倍率ではなく、入学者数を指標に据え直す。そのうえで、第一志望として入学を決めてくれる専願の出願者を着実に増やしにいく。少ない募集規模でも充足が安定し、そこからV字で戻していきました。

変わるのは数字だけではありません。自校と親和性の高い学生が増えると、学内の雰囲気が変わり、それが翌年の募集に返ってきます。ただし覚悟も伴います。第一志望で選んでくれた学生を期待どおりに成長させる責任は、受け入れた側にある。確度の高い層を集める施策は、教育の側の約束とセットでなければ成立しません。

もう一つは、これまで取れていなかった層に手を伸ばした学校です。留学生の比率を高める。女子大学が共学化に踏み切る。どちらも学内の賛否が割れる判断で、規模を埋めるためだけに層を広げるのならうまくいきません。自校は誰に選ばれてきたのかを問い直した結果としてそこに至った学校が、充足率を改善していきました。

二つに共通するのは、従来の募集のやり方そのものを疑い、3年から5年先まで見据えて絵を描いていたことです。そして、いきなり大型の改組から入っていない。まず募集活動を地道に改善し、次に入試制度を見直す。学部再編はその先に置く。打ち上げ花火を一度打って終わりにするのではなく、毎年リビルドし、リブランドし続ける。一度に全部変えればひずみが出ますが、少しずつ組み替え続けた学校は、数年後に別の学校になっています。

そうは言っても、経営が苦しいから縮小するのであって、募集に投資する余力などない。そういうご意見はあると思います。もっともです。ただ、削る順番の問題ではないでしょうか。規模に比例して一律に削るのか、それとも入学に近い施策を残して遠い施策から削るのか。同じ削減額でも、数年後の姿は大きく変わってきます。

7年という猶予は、思ったより短いはずです。戻すかどうかを判断するとき、手元に何が残っているか。どんな学生が来て、どこから来て、なぜ選んでくれたのか。それが分かっていなければ、7年後の判断もまた勘に頼ることになります。

縮小が可逆になったということは、縮小したあとの数年間が、判断材料を貯める期間になったということでもあります。減らす議論と同じ熱量で、減らしたあとの募集をどう設計するかを話し合っておきたいところです。

参考資料

免責事項

本コラムに記載した制度および統計に関する情報は、上記の参考資料に基づく2026年7月30日時点のものです。その後の改正や更新により内容が変わる場合があります。制度の詳細および最新の状況については、文部科学省の公表資料を必ずご確認ください。

本文中の学校の傾向に関する記述は、当社が支援または見聞きした事例に基づく筆者の観察であり、統計的に検証されたものではありません。意見にわたる部分は筆者個人の見解であり、特定の大学の対応を推奨または批判する意図はありません。個別の経営判断および募集設計については、各校の状況に応じてご検討ください。

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